やってみた!ミュージカル歌詞内のあれこれ

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『ハミルトン』とラップ、そして政治との関係がよく分かる本

ミュージカル『ハミルトン』の曲を聴いた方はもうとっくにご存知のことと思いますが、このミュージカルはほとんどの音楽がラップで構成されています。

リズムが良くて、スピードがあって、かっこよくて、しびれてしまう曲の数々ですが、そもそもラップとはどのようなもので、どのように発展していったのでしょうか?

今回はその関係性について徹底討論している本をご紹介します。

目次:

この本との出会い

 

偶然の出会いでした。

図書館のどこのコーナーで見つけたのかすら覚えていません。ただ、「ラップ」という単語が目に飛び込んできたので手に取りました。

中をペラペラとめくると、最終的にドナルド・トランプが勝利した直近のアメリカ大統領選とラップとを絡めて書いた本だということが分かりました。

一見すると何の関係性もないように感じられるかもしれませんが、ラップは批判性があり、言葉の強い音楽ということはそれとなく知っていたので、この本を読むことで、何か新しい視点が持てるのではないか…と期待したのです。

実際のところ、この本の全ては読んでいませんが、今回は私が読んだ中で印象的であった部分とラップの政治との関わりについてまとめていこうと思います。

 

ヒップホップとは

まず、「ラップ」とは何ぞやについてですが、これは単なる音楽ジャンルではありません。以前別の記事でも説明している通り、ラップとは「ヒップホップ」を構成する四大要素の1つです。

 

 

日本では「ヒップホップ」と聞くとダンスを想像してしまいますが、本来はこの4つのジャンルをまとめた総称で、現在アメリカでは「ヒップホップ」という単語はほとんど使われないようです。それぞれの要素がそれぞれの道を歩み、特にラップは音楽としての立ち位置を極めていきました。

 

この本で特に面白いなと感じたのは、ラップと政治の絡み。

ラップは物事を批判する音楽ですが、特に政治に対するラップが多いとのこと。特にドナルド・トランプは大統領選以前もラップの題材としてよく使われいたことや、現代においてラップにおける政治批判は薄れていっていることなど、読んでいて非常に興味深いものでした。

 

『ハミルトン』とラップ

『ハミルトン』がオバマ政権時にピッタリと重なっているということをご存知の方はいらっしゃいますか?私はオバマ政権中に『ハミルトン』が制作されヒットしたとは知っていましたが、ピッタリかぶっているとまでは知りませんでした。

 

『ハミルトン』は完全にオバマ政権とリンクしています。(中略)ラップが音楽ジャンルとしてだけではなくミュージカルにも取り入れられる、しかもそれがオバマ政権の最初と最後に重なっているというのは非常に象徴的なことに思えます。
ラップは何を映しているのか [ 大和田俊之 ](p.16-17)

 

意図的だったのか偶発的だったのかはさておき、アメリカ初の黒人大統領、そして人権の多様性を掲げていたオバマ大統領の下で、実際は白人であったアレクサンダー・ハミルトンやアーロン・バーなどの登場人物をヒスパニック系やアフリカ系、アジア系といった多様の人種でキャスティングしたこの作品に、メッセージ性が強いことだけは間違いありません。

音楽がラップであるのはさることながら、キャスティングも挑戦的な『ハミルトン』は、「アメリカは移民によって出来た国なのだ」という制作側の主張を世間に投げかけています。『ハミルトン』の歌詞にある“Immigrants, we get the job done.”が、その全てを物語っていると言えるでしょう。

ちなみに、ハミルトンとオバマ大統領は同じコロンビア大学の出身です。あぁ、縁を感じずにはいられない…。

 

そんなさなか、大統領がトランプに代わります。 

トランプ大統領のキャッチコピーと言えば“Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)”ですが、彼の言うアメリカとは「白人主義」のアメリカです。

従って、ミュージカル『ハミルトン』の主張とは相反するものなのですが、その時起こった出来事がこれです。

 

それこそ、大統領選でのトランプ勝利確定後に、『ハミルトン』の公演を副大統領候補であるマイク・ペンスが観にきて、観客からブーイングが起こった。そしてカーテンコールでは、キャストたちが、帰ろうとしていたペンスに対して、「アメリカの価値観を体現する、多様な人々による物語を観てくださったことに感謝します。私たちはあながたがこの舞台から感銘を受け、新政権でそういった価値観を守ってくれることを祈っています」と告げた。アメリカの前途多難に思いを馳せてしまうようなシーンでした。
ラップは何を映しているのか [ 大和田俊之 ](p.17)

 

私は、こんなことがあったとは知りませんでした。

『ハミルトン』ファンは、『ハミルトン』の考え方に賛同していると言えるので、「白人主義」を唱えている人たちは極めてないでしょう。そのためにブーイングが起こったわけですね。

そして、カーテンコールでキャスト達がペンス氏に対し「多様性」について言及したのです。「アメリカとは白人だけで構成されているわけではない。そのことをこの作品によって改めて理解し、その価値観を守り、反映することを期待している」と。

その時のペンス氏は一体何を思い、その気持ちを持ち帰ったのでしょうか?

何よりも素晴らしいのは、キャストが『ハミルトン』の根本的なメッセージ性を理解していたということだと感じています。ただカッコイイだけではないミュージカル。この歴史的瞬間に、私も立ち会いたかったような気がしています。